県立広島大学 保健福祉学部保健福祉学科看護学コース
松森直美研究室
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研究の概要

本研究の概要

「小児看護ケアモデル」は、1997年の原型版をもとに研究を積み重ねて開発した子どもと家族への基本的な倫理的看護実践を24項目の簡潔な表現にまとめたものです。
このモデルを活用し独自に考案した介入プログラムを2012年から実施し、効果を検証してきました。その結果、小児看護経験の浅い看護師や他科経験のある看護師への効果が明らかとなりました。
そこで、増加し続けている混合病棟や地域の診療所等の多様な場で小児看護を実践している看護職の皆さんに研究や公開講座で用いた資料や成果の一部を公開し、臨床現場等で活用していただきたいと思います。
さらに、新人看護師や混合病棟等の小児看護初心者に対する小児看護特有の体系化された研修プログラムの開催は各地域で限られている現状があります。

今後も講座を開催し、小児看護に特化した臨床研修としての実行性の検証と応用を目指し、多様化している小児看護の場における看護職の倫理的看護実践を強化するための現任教育・継続教育プログラムの1つとしてさらに質を向上させ、提案したいと考えています。
オンラインフォームから回答していただいた内容も回答者が特定されないよう配慮し、研究成果の一部として活用させていただきます。

子どものコントロール力に影響する要因

子どもが採血・点滴などの医療処置を受ける時は、様々な要因が子どもの特性に影響して反応が表出されます。以下の研究をもとに概念図を作成しました。

看護婦の言動が小児のがまんに及ぼす影響―注射・採血場面において人格の形成を支えるという視点からー
松森直美、野中淳子(1994)、日本小児看護研究学会、3(2)、80-87

小児のがまんが看護婦の言動に及ぼす影響 -注射・採血場面における援助の実際を通してー
松森直美(1995)、日本小児看護研究学会、4(2)、13-20

子どもの自制心や忍耐力(がまんする力)に影響する要因として、以下のことが考えられます。

<内的要因>
年齢・性格・親子関係、痛みの経験(痛みの理由がわかっていたか、自分でコントロールできない状況で起こったかなど)、その他の体験(困難を乗り越えた経験の有無など)、医療者・病気に対する認識 など

<外的要因>
医療処置の内容と処置の情報、先の見通し、痛みの程度、処置室の環境、医師・看護師など医療者と家族の言動(関わり方、親の付き添いの有無など) 以上の要因によって、子どもの情報処理能力、対処能力、意思決定能力と不安、恐怖心、自尊心の低下が自律性と依存性のバランスに影響し、子どもの反応(じっとしている、痛いという、泣く、顔をしかめる、抵抗する、無反応、手を押さえるなど)として表出されると考えます。

小児看護ケアモデル作成と活用の経緯

小児看護における倫理的な看護実践を促進するための介入プログラム開発
私たちは2000年から小児看護の場における倫理的な看護実践を促進するため「ケアモデル」の研究に取り組み、これを基にした介入プログラムの実施と検証を重ねてきた。

2000~2002年日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究B)「検査・処置を受ける子どもへの説明と納得に関するケアモデルの実践と評価(研究代表者:蝦名美智子)」において、小児看護における検査・処置場面の典型例を集め「ケアモデル」を作成した。このモデルを臨床看護師に実施してもらった結果、実施前と比べ、3か月後、6か月後と段階的に倫理的な看護実践の認識が向上し長期的な改善効果が見込まれた。

2009~2013年日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C)「看護師が行う子どもへのプレパレーション実践導入モデルの検討」では、先のケアモデルの表現を精選した「簡易版ケアモデル」を活用した介入プログラムを考案し、小児看護に携わる9名の受講者を対象に実施した。その結果、1か月半後にケアモデルのほとんどの項目において実施頻度が改善し、日常の倫理的な看護実践を振り返る方法として有用であることが示唆された(松森、2013)。

2013~2017年日本学術振興会科学研究補助金基盤研究(C)「看護師が行うプレパレーションを含む小児看護ケアモデルの構築と活用」により、小児看護の経験5年以内の他科経験者や診療所に勤務する看護師を含む看護師32名を対象として約1時間半の初回介入と2回目と3回目は郵送で行う新たな介入プログラムを考案し実施した。その結果、分析対象とした22名の看護師の小児看護ケアモデルの実施に関する認識は、介入直後に実行容易性が認知され、2カ月後には「子どもに挨拶・自己紹介する」、「子どもに説明する」、「声かけをする」等の基本的な倫理的看護実践が改善し、子ども・家族の主体的な行動への変化がみられた。

小児看護初心者や他科経験者等への倫理的看護実践強化プログラムの必要性

厚生労働省による調査(2014)では、小児科を標榜する一般診療所は20,872施設で一般病院2,656施設の約8倍である。また、小児病棟の混合病棟化は1994年以降から急速に増加し、小林らの調査(2013)では小児診療を行う病院の約7割が混合病棟とされている。このように短期入院の動向および混合病棟化から多様な小児医療の場における小児看護の専門性の質の確保は重要となっている。2010年に保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部改正により新人看護職員の臨床研修が努力義務となり、「新人看護職員研修ガイドライン」が策定された。先のi)で述べたように、混合病棟における小児や家族への関わり方に不慣れな看護師による倫理的な看護実践の差、保育・教育面での質の問題など医療施設間での小児看護の専門性の不均衡が生じている。しかし、小児看護特有の新人看護研修や混合病棟等の小児看護初心者、他科経験者に対して体系化された研修プログラムはない。

私たちが2000年から研究を積み重ねて独自に開発した「小児看護ケアモデル」は、[子どもに挨拶・自己紹介する]、[子どもに説明する]等、子どもと家族への基本的な倫理的看護実践を24項目の簡潔な表現にまとめたものである。このモデルを活用し考案した介入プログラムを2012年から実施し効果を検証した結果、小児看護経験の浅い看護師や他科経験のある看護師への倫理的看護実践が変化し効果が明らかとなった。そこで、本介入プログラムを小児病棟に限らず混合病棟や地域の診療所等の多様な場で小児看護を実践している看護師に実施し、その効果を明らかにする。さらに本介入プログラムは約1時間半の初回介入と郵送による2回のプログラムで構成されており、多様な勤務形態をもつ看護職に対する小児看護に特化した臨床研修としての実行性の検証と応用を目指す。最終的に、多様化しているあらゆる小児看護の倫理的看護実践を強化するための現任教育プログラムの1つとして提案したいと考える。

これまでの主な研究業績

  1. Effects of an Intervention Program for Promoting Ethical Practices Among Pediatric Nurses. Naomi Matsumori, Comprehensive Child and Adolescent Nursing, 10.1080/24694193.2018.1470704 https://doi.org/10.1080/24694193.2018.1470704
  2. An Ethical Practice Intervention Program for Pediatric Nurses with Varied Nursing Experience, Naomi Matsumori, Open Journal of Nursing, 2020, 10, 411-428, https://doi.org/10.4236/ojn.2020.104028
  3. Studying the Reinforcement Effect of a Seminar on Ethical Practices among Pediatric Nurses, Naomi Matsumori, Open Journal of Nursing, 2021, 11, 152-163, https://doi.org/10.4236/ojn.2021.113014
  4. Development of educational programs to promote ethical nursing practices in pediatric nursing in Japan, African Journal of Medical Case Reports, 9 (2), pp.003, JULY, 2021. https://www.internationalscholarsjournals.com/articles/development-of-educational-programs-to-promote-ethical-nursing-practices-in-pediatric-nursing-in-japan.pdf
  5. Nurse’s impressions and changes after the workshops using the pediatric nursing care model, Naomi Matsumori, Journal of Nursing Education and Practice, 6(9), https://doi.org/10.5430/jnep.v6n9p82, 2016
  6. Psychological Preparation of Children for Medical Procedures: An Awareness Survey Targeting Nurses in Japan, Naomi Matsumori, Ryoko Ito, Aya Kawano, Yukiko Hyakuta, , Open Journal of Nursing, 5, 613-621, https://www.scirp.org/pdf/OJN_2015071315290368.pdf, 2015
  7. 小児科における採血時プレパレーションの検討, 山口恵梨香, 松森直美, 第45回日本看護学会論文集 急性期看護, 23-26, 2015
  8. Psychological Preparation of Children for Surgery: Awareness Survey Targeting Medical Professionals, Naomi Matsumori, Open Journal of Nursing, 4, 564-575, https://pdfs.semanticscholar.org/d3f1/32b2373e01525f9a5b1e1f4f63a3517ffb68.pdf, 2014
  9. 採血・点滴を受ける子どものプレパレーションに関する看護師への意識調査-年齢階級別による実施中のかかわりについて―, 橋本ゆかり, 杉本陽子, 蝦名美智子, 楢木野裕美, 今野美紀, 松森直美, 高橋清子, 岡田洋子, 小児保健研究, 73(3), 446-452, 2014
  10. Psychological preparation practices for children undergoing medical procedures in Japan and Germany, Naomi Matsumori, Michael Isfort, , Open Journal of Nursing, 3(2), 281-286, https://www.scirp.org/pdf/OJN_2013061316170316.pdf, 2013
  11. 子どもに人形を使って説明を行った場合の効果, 松森直美, 小児看護ケアモデル実践集-看護師が行う子ども目線のプレパレーション-, へるす出版, 38-43, 2012
  12. 検査・処置を受ける子どもへの説明と納得に関するケアモデル:作成の経緯, 松森直美, 小児看護ケアモデル実践集-看護師が行う子ども目線のプレパレーション-, へるす出版, 46-47, 2012
  13. ケアモデルのチェックリスト原型版・簡易版の活用, 松森直美, 小児看護ケアモデル実践集-看護師が行う子ども目線のプレパレーション-, へるす出版, 48-52, 2012
  14. 5~7歳の子どもに対するケアモデル, 松森直美, 小児看護ケアモデル実践集-看護師が行う子ども目線のプレパレーション-, へるす出版, 80-89, 2012
  15. ケアモデル導入による変化②子どもの力を引き出す技術, 松森直美, 小児看護ケアモデル実践集-看護師が行う子ども目線のプレパレーション-, へるす出版, 117-121, 2012
  16. Psychological preparation practices for children undergoing medical procedures in Japan and Germany, Naomi Matsumori, the 9th International Conference of the Global Network of WHO Collaborating Centres for Nurisng and Midwifery, Program & Abstracts, 111, 2012
  17. 子どもに対する血圧測定のプレパレーションの効果に関する検討, 薦田彩絵, 松森直美, 日本小児看護学会誌, 20(1), 120-126, 2011
  18. 手術を受けた子どもへのプレパレーションに関する親の意識, 松森直美, 蝦名美智子, 杉本陽子,楢木野裕美,佐藤洋子,岡田洋子,今野美紀,高橋清子,橋本ゆかり, 日本小児看護学会誌, 20(2), 1-9, 2011
  19. Die Reduzierung von Ängsten von Kindern vor Untersuchungen und Operationen (in Germany), Michael Isfort, Naomi Matsumori, Roland Brühe, Kinderkrankenschwester, 30(9), 378-386, 2011
  20. 中学3年生の病院・医師・看護師に対するイメージと要望に関する調査, 勝間裕美子, 松森直美, 小児看護, 33(2), 260-264, 2010
  21. Child health nursing issues regarding psychological preparation practices for children undergoing medical procedures in Japan, Naomi Matsumori, The 1st International Nursing Research Conference of World Academy of Nursing Science, Program & Abstracts, 20, 2009
  22. 総特集プレパレーション実践集 医療処置を受ける子どもへのケアモデル:5~7歳頃の子どもへのケアモデル, 松森直美, 小児看護, 31(5), 596-602, 2008
  23. 手術を受ける子どもへのプレパレーションの実践と普及の検討-キワニス人形と木製模型を用いた方法を試みて-, 松森直美, 鴨下加代, 人間と科学, 6(1), 71-81, 2006
  24. Practical application and evaluation of a care model for informing and reassuring children undergoing medical examinations and/or procedures (part 2): Methods of relating and practical nursing techniques that best bring out the potential of children, Naomi Matsumori, Keiko Ninomiya, Michiko Ebina, 他14名, Japan Journal of Nursing Science, 3, 51-64 , 2006
  25. Use of the Drawing Technique in Nursing Assessment, Naomi Matsumori, Journal for Specialists in Pediatric Nursing, 10(4), 189-193, 2005
  26. 「検査・処置を受ける子どもへの説明と納得」に関するケアモデルの実践と評価(その2)子どもの力を引き出す関わりと具体的な看護の技術について, 松森直美, 二宮啓子, 蝦名美智子, 片田範子, 他13名, 日本看護科学会誌, 24(4), 22-35, 2004